「もう自社で支援するので、委託を解約します」——登録支援機関にとって最も聞きたくないセリフが、現実に増えています。
2年以上の外国人受入実績がある企業は自社支援に切り替え可能。コスト削減を目的とした内製化の流れは、2026年4月からの定期報告の年1回化(四半期→年次)によってさらに加速すると予測されます。
しかし、適切な付加価値戦略を持つ機関は、委託解約の波をむしろ「選別のチャンス」として活用しています。本記事では、委託継続を勝ち取るための戦略と、内製化を「機会」に変えるアプローチを提示します。
自社支援(内製化)が加速する背景
自社支援の要件(過去2年間の受入実績)
出入国在留管理庁の規定では、以下の要件を満たす企業は自社で特定技能外国人の支援を行うことができます。
自社支援の要件
- 過去2年間に中長期在留者の雇用管理を適正に行っている(または適正に行っていた)実績がある
- 特定技能外国人が日本において行う活動の内容を理解している
- 支援担当者・相談窓口が設置されている
つまり、外国人材の雇用実績が2年以上ある企業であれば、ほとんどの場合に自社支援の要件を満たします。多くの受入企業がこの条件を満たしているにもかかわらず、登録支援機関に委託し続けているのは「手間がかかる」「専門知識が必要」「リスクを避けたい」という理由からです。
この前提を理解した上で差別化戦略を設計することが重要です。
受入企業が内製化を選ぶ3つの理由
内製化を検討・実行する企業の多くは、以下の3つの理由を挙げます。
- コスト削減: 月額2〜3万円/人の支援委託費が「高い」と感じている
- 関係の深さ: 外国人材と直接コミュニケーションを取りたい(第三者を介したくない)
- 柔軟性: 突発的な問題への対応を外部任せにしたくない
これらの理由のうち、「コスト削減」に対しては価格交渉や低コストプランの提案で対応できます。しかし「関係の深さ」「柔軟性」については、価格では解決できません。価格以外の価値を提示することが、委託継続の鍵です。
定期報告の年1回化が内製化を後押し
2026年4月から、特定技能の定期報告が四半期1回から年1回に変更されます(詳細は特定技能の定期報告が年1回に変更(2026年4月〜)を参照)。
この変更により、「報告書作成のために登録支援機関に頼んでいた」という企業の解約動機が強まります。年に1回の報告であれば、「自社でできる」と判断する企業が増えるためです。
登録支援機関の委託解約の実態
解約率のトレンド
業界全体として正確な統計はありませんが、複数の登録支援機関への取材では、年間の委託解約率が5〜15%程度に上るという声が聞かれます。特に、外国人材を50人以上雇用している中堅企業での解約が増えています。
解約のパターンには大きく2種類あります。
パターン1: コスト削減型解約 支援委託費の削減を目的とした内製化。財務的プレッシャーが高まった際に発生しやすい。
パターン2: 満足度低下型解約 支援品質に不満を持った受入企業が内製化を機に解約。こちらは防ぐことができるリスクです。
解約されやすい機関の共通点
- 定期面談が形式的で、外国人材の状態を把握できていない
- 問題が起きてから連絡してくる(予防的関与がない)
- 受入企業の担当者との関係が希薄
- 提供しているサービスが「最低限の義務的支援」のみ
解約されにくい機関の特徴
- 外国人材の定着率が数字で示せる(前回面談から改善・悪化が可視化されている)
- 受入企業の担当者と定期的にコミュニケーションを取っている
- 「この機関に頼まないとできないこと」が明確にある
- 外国人材からも信頼されている(外国人材が自ら相談してくる)
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委託継続のための付加価値戦略5選
戦略1: 企業にはできない「多言語対応」の提供
受入企業の担当者が外国語を話せないケースは多数あります。ベトナム語・インドネシア語・ミャンマー語などで外国人材と直接コミュニケーションが取れる登録支援機関は、企業にはできない価値を持っています。
特に深夜・休日の緊急対応(けが・体調不良・トラブル等)は、多言語対応ができる登録支援機関への依存度が高くなります。
具体的な伝え方: 「夜中の2時に外国人材から緊急の電話があった場合、御社の担当者は対応できますか? 当機関では24時間の多言語対応体制を整えています」
戦略2: コンプライアンス保証(リスクヘッジの価値)
特定技能外国人を雇用する受入企業には、様々なコンプライアンス義務があります。支援計画通りの支援を確実に実施し、定期報告を適切に行わなければ、出入国在留管理庁からの指導・処分リスクが生じます。
「登録支援機関に委託しているから安心」という価値を明確に伝えることが重要です。
数字で示す: 「自社支援に切り替えた場合、社内に特定技能制度の専門知識を持つ担当者の育成・維持が必要です。制度変更への対応コストも含めると、実質的な内製化コストは月額2万円を大幅に上回ります」
戦略3: データドリブンな支援品質レポート
月次または四半期ごとに、外国人材の状態をレポート化して受入企業に提出します。
レポートに含める内容
- 外国人材の満足度スコア(面談結果から算出)
- 主な相談テーマと対応状況
- 日本語能力の進捗状況
- 特記事項(体調・プライベートでの変化等)
このレポートがあることで、受入企業の担当者は「外国人材の状態が可視化されている」という安心感を持てます。同時に、「自社でこのレポートを作り続けることは難しい」という認識を促せます。
戦略4: 外国人材のキャリアパス提案
特定技能1号(5年)から特定技能2号(無期限)、さらには永住権取得まで、外国人材の長期的なキャリアパスを提案できる機関は、受入企業から「長期パートナー」として扱われます。
受入企業にとって、外国人材の長期定着は最大の経営課題です。「5年後、10年後もこの人材に働いてもらいたい」というニーズに応える機関は、コストではなく「投資先」として評価されます。
戦略5: トラブル対応の「保険」としての契約
外国人材に関するトラブル(無断欠勤・同僚とのトラブル・不当な待遇の申告等)は、受入企業の担当者にとって大きな精神的負担です。
「登録支援機関が常に間に入って解決する」という安心感は、金銭的な価値に換算しにくいですが、実際に問題が発生した際には非常に高い価値を発揮します。
価格以外で選ばれるための営業トーク
「自社支援のリスク」を正しく伝える方法
内製化を検討している受入企業に対して、リスクを数字と事例で伝えます。
伝えるべきリスク
- 制度変更への対応コスト(外部専門家への相談費用、担当者の研修費用)
- コンプライアンス違反時のペナルティ(指導・処分による事業リスク)
- 担当者の退職リスク(ノウハウが属人化している場合の脆弱性)
- 外国人材の不満蓄積(第三者がいないことで言いたいことが言えなくなるリスク)
これらを感情的に訴えるのではなく、冷静に「経営リスクの一つ」として提示することが重要です。
部分委託(フルサービスでなく一部だけ)の提案
「全部やめる」か「全部委託する」のバイナリな選択ではなく、「一部だけ委託する」という選択肢を提示します。
部分委託の例
- 多言語相談対応のみ(月額5,000〜1万円)
- 年次定期報告の作成支援のみ(年額3〜5万円)
- 緊急時対応のみ(コール対応のみのプラン)
受入企業が支払う費用を下げることで解約を防ぎながら、継続的な関係を維持します。
ROI説明資料のテンプレート活用
受入企業の担当者が「自社支援 vs 委託」を社内で比較・説明するための資料を作成して提供します。
この資料を作ることで、担当者が内製化を比較検討する際に登録支援機関の価値が「見える」形になります。
内製化を「機会」に変える新サービスモデル
自社支援企業向けのコンサルティング
自社支援に切り替えた企業は、初めて制度の複雑さに直面します。「やってみたら大変だった」という企業向けのコンサルティングサービスは、解約後の新たな収益源になります。
月額1〜3万円のコンサルティング契約で、以下のサービスを提供できます。
- 月次の電話・メール相談(回数無制限)
- 定期報告書のレビュー・フィードバック
- 制度変更情報の定期配信
スポット支援(面談代行・通訳派遣)
定期委託を解約した後でも、「定期面談の際だけ通訳として来てほしい」「定期報告書の作成時だけサポートしてほしい」というニーズが残ります。
スポット支援を受け付けることで、解約後も継続的な収益機会が生まれます。
スポット料金の例
- 面談代行(通訳込み): 1回1〜2万円
- 定期報告書の作成支援: 1回2〜4万円
- 緊急時通訳対応: 1時間1〜2万円
SaaS型の支援管理ツール提供
自社支援を行う企業向けに、定期面談の記録・在留期限管理・定期報告書の作成を支援するツールを低価格で提供するモデルです。
支援委託費(月額2万円)の代わりに、ツール利用料(月額5,000円〜1万円)での収益化が可能です。顧客数が増えるほど収益が安定し、解約後の受入企業を完全に失わずに関係を維持できます。
差別化戦略と組み合わせることで、より強固な収益モデルを構築できます。登録支援機関の差別化戦略もあわせてご参照ください。
よくある質問(FAQ)
Q. 受入企業から「安い他社に移る」と言われた場合の対処法は
A. まず、価格だけが理由なのかを確認します。多くの場合、潜在的には「このまま続けるべきか」という迷いがあり、価格は一つのきっかけに過ぎません。「安い機関に移った場合のリスク」を具体的に提示しながら、部分委託プランやコスト削減策を提案することが有効です。それでも価格が最優先であれば、無理に引き止めず、スポット支援への移行を提案します。
Q. 自社支援への切り替えを事前に察知できるか
A. 以下のサインに注意することで、早期に察知できることがあります。受入企業の担当者が制度の詳細を積極的に質問し始めた、自社の採用担当者が入れ替わった、コスト削減の話が出るようになった——これらのシグナルが現れたタイミングで、積極的に価値を伝える関与を強化することが重要です。
Q. 既に自社支援に切り替えた企業を取り戻せるか
A. 困難ですが不可能ではありません。自社支援に切り替えてから6〜12か月後に「やはり大変だった」と感じる企業は少なくありません。切り替えから半年後に「自社支援の課題ヒアリング」として連絡し、スポット支援から関係を再構築するアプローチが有効です。
まとめ
受入企業の自社支援化は、登録支援機関にとって避けられない経営環境の変化です。しかし、「内製化できること」と「内製化すべきこと」は異なります。
適切な付加価値戦略を持つ機関は、「自社でできる」企業に対しても「それでもお願いしたい」と思わせる価値を提供できます。多言語対応・コンプライアンス保証・データドリブンな支援品質の可視化・キャリアパス提案・トラブル保険の5つの戦略を組み合わせることで、委託継続率を高めてください。
収益モデルの全体設計については、登録支援機関の収益モデル完全分析もご活用ください。
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